ドイツ帝国皇帝ヴィルヘルムとその末子で一人娘のヴィクトリア・ルイーゼ王女のキャビネ判古写真。

皇帝ヴィルヘルムは皇帝フリードリヒ(長らく皇太子の地位に在り、即位後間もなく病没)とその妃で英国女王ヴィクトリアの長子ヴィクトリア王女(ヴィッキー、プリンセス・ロイヤル)の長男。
愛妻家として知られる一方で、プロポーズを断られた母方の従姉妹に当たるドイツ帝国ヘッセン大公の次女エリーザベト大公女(エラ、母はヴィクトリア女王の次女アリス王女、後のロシア大公妃で革命で殺害された。聖人)の写真を亡命先のオランダの館で死ぬまで卓上に飾っていたと言われる。
スペイン王妃にドイツ帝国内のメクレンブルク=シュヴェリーン大公国の公女を望み、従姉妹に当たるバッテンベルク公爵令嬢ヴィクトリア・ユージェニー(エナ、ヘッセン大公家の貴賤結婚家系の傍系出身で、母が英国ヴィクトリア女王の末娘ベアトリス王女、その名はベアトリス王女の意中の人で未婚のまま戦死した旧フランス皇族の皇太子の母・フランス皇后ウジェニー〜美貌の人で、カルティエやオートクチュールの父と呼ばれるメゾンを王族に広めた人物として知られる。スペインの伯爵令嬢、イギリスに亡命していた〜に因む)とスペイン国王との縁組を貴賤結婚(身分的に対等でないとされた結婚。王族とそれ以下の結婚を指すが、いわゆる旧諸侯家系の貴族は問題視されない例もあり、個々の縁組は家長の判断に依った)に当たると非難した(エナは王族の称号を与えられた後に結婚したため、指摘は的外れではない。大抵の君主国では、当初当主以下が貴賤結婚に反対していても結婚を許し、相手女性に貴族や上位貴族の身位と称号を与え、次代は生まれながらにプリンス・プリンセスの称号を持ち、君主家との縁組もある、という流れになっている。バッテンベルク家の場合も同様で、最初はヘッセン大公家の大公女が父大公が反対する中嫁ぎ、次に英国王女が母女王の反対に抵抗して嫁ぎ、その娘たちがスウェーデンやスペインの王妃となり、現代では英国王室が次代からバッテンベルク＝マウントバッテン家になる)が、自身の推していたメクレンブルク=シュヴェリーン家の公女の母もドイツの旧諸侯家系のプリンセス(ヴィンディシュ=グレーツ侯爵/公爵家出身のマリー妃、オーストリア皇太子ルドルフの娘エリーザベト・マリー大公女の夫の家。サリカ法に則り男系継承を行うメクレンブルク家は基準を満たす正統な継承者なく断絶し、継承権を放棄していた貴賤結婚家系の伯爵家の一族が当主に養子に迎えられて正式に家長となっている。この系統は男系が続いていたが、大公の弟であったマリー妃の夫が妃と同じカトリックに改宗したために大公位の継承権を放棄している。その時点では大公家本家に男子は複数居たために断絶を予測出来る状況になく、同じドイツ帝国内のヴュルテンベルク王家でプロテスタントの本家が断絶した時には、王族の称号も継承権も持つが王子・王女ではなく公爵・公爵令嬢の身位しか持たないカトリック系の傍系が家長を継いで現在に至っている)で、従兄弟の英国国王の王妃はドイツ帝国ヴュルテンベルク王国の貴賤結婚家系の王族の称号も継承権も持たないプリンセスである等、ヴィクトリア期に既に王族同士でない結婚も数多あった(この頃には旧諸侯が独立を保っていた神聖ローマ帝国の崩壊がそんなに前のことではなかったため、マリー妃のように、数代前の君主国の歴代妃に諸侯家のプリンセスが居ることも多かった)。
ヴィルヘルム自身も、再婚したロイス家のプリンセスは裕福ではあるが旧諸侯家系の出身であり、写真のヴィクトリア・ルイーゼ王女は継母に対してドイツ皇后としては認めないと発言していた。

ヴィクトリア・ルイーゼ王女の娘のフレデリカは旧ギリシャ王家家長の妻となっており、その娘が前スペイン王妃ソフィアである。
ギリシャ王妃ソフィア(ソッシー、プロイセン王女ゾフィー、フレデリカの義母)はヴィルヘルムの妹でヴィクトリア・ルイーゼ王女の叔母。

1800年代後期、自身と姉でザクセン=マイニンゲン公妃シャーロット(プロイセン王女)御用達のドイツ・ベルリンの写真館、J.C.Schaarwchterによる撮影。

退色が少なく、サーベルや椅子の装飾など細部までかなりクリアでシャープに見える、コントラストが非常に良い写真。
傷や汚れ、染みあり。
裏に過去の所有者のものと思われるスタンプが押してある。

※古写真について
鶏卵とは写真のプロセスを言い、手札判とは、いわゆるアンティークの分厚い面取りガラスの写真立てに入れて卓上に飾ったような大きいキャビネ判ではなく名刺サイズを指す、古写真の種類です。
鶏卵写真より少し後の時代の銀塩写真もコレクターズアイテムとなっており、アンティークのポストカードにもその手法で作られたものがあります。
手札版の鶏卵写真は、当時海外でカルト ド ウィジットと呼ばれた訪問時に相手に渡す写真入りの名刺代わりに差し出すカードで、そのコレクターはカルト(カードの仏語)マニアと呼ばれ、ヴィクトリア女王もその蒐集家の一人でした。
今も英国のナショナルポートレートギャラリーにはヴィクトリア女王の縁戚の王侯貴族の写真が多くあります。
古写真自体が近年まで日本ではあまり評価されて来なかったもので、当時からアルバム用の大型の写真等も海外へのお土産用として欧米に渡っています。
ですので、海外の美術館のようなコレクションを誇る機関は日本にはありません。
けっこう前の情報ですが、古写真をコレクションしているのも熊本大学くらいでした。
着色写真など芸術的な観点から美しいものも多々あり、また、取り壊された城郭や藩邸、火災で消失した金閣寺等々現存していない建物の写真も残されており、史学としても貴重な資料が多く在ります。


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